オーテンロッゼが到着するまでの戦況、それは 前回の『第三次倫敦攻防戦』序盤を忠実に再現したものだった。
凛のカレイドアローが死者を高々と打ち上げ、ルヴィアのカレイドグラップが薙ぎ払い、桜のシャドーホームは次々と虚無に落とし、イリヤのレインボーバードが宝石の彫像を作り上げ、カレンのラブアース・ディザスターが余す事無く叩き潰していく。
アルトリア達英霊も次々と死者、下級死徒を斬り捨て、貫き、叩きのめし、焼き払いひき潰していく。
他にもバルトメロイ率いる『クロンの大隊』やフリーランス部隊、更にイギリス軍も目立った被害も無く順調に撃破数を重ねていく。
元々、数は少ない上に主戦力が死者である『六王権』軍にこの猛攻を耐え切れる筈もない。
『六王権』軍主力部隊が到着した時には、先発部隊は兵力の九割以上を失い全滅とさほど変わらない状況にまで追い詰められ、味方は壊走寸前、敵は勢いに乗じた追撃戦に移行しつつあった。
「ちぃ・・・被害を与える所か足止めも出来ぬと言うのか役立たずが!まあいい、あれを使う」
最初味方のふがいなさに憤慨していたオーテンロッゼだったが直ぐに気を取り直して己の持つ最強の切り札の使用を始めようとしていた。
『第四次倫敦攻防戦』はここより本番を迎える。
四十一『霧中』
『六王権』軍を壊滅させ僅かな残党への追撃を仕掛けようとした矢先、後方から敵の新手が現れたと報告を受けて一同その動きを止める。
一部独断で追撃を続行しそうになった部隊もあったが、それも隣接する味方部隊がどうにか制止させる。
後退して陣形を建て直し、万全の体制で迎撃の態勢を取り、改めて『六王権』軍を待ち構える。
しかし、当の『六王権』軍はといえば、僅かな自軍の取り込むと、こちらも動きを止めてしまった。
そのまましばし睨み合いが続く。
だが、その睨み合いも長くは持たなかった。
その数分後、『六王権』軍陣営より朗々とした声と共に宣告がなされた。
―霧に見えぬ恐怖に怯え、力が通じぬ絶望に戦け―
その途端、一帯を突然、霧が包み始めた。
「何だ?この霧??」
ロンドンは霧の都と呼ばれるほど霧の発生が多い。
しかし、これほど唐突な霧の発生はそうそうあるものではない。
突然の事に戸惑っていたが悲鳴に近い報告に全員が蒼褪めた。
『緊急事態!!魔術結界が次々と無効化されています!!』
それが引き金だったのか、あちこちから似た報告がもたらされる。
『アルファ1、2、3結界消滅!』
『ガンマポイント、機能しません!』
『霧に包まれた結界の基点が次々と崩壊を!』
「どういうことだ!!」
思わず司令部のウェイバーが声を荒げる。
「エルメロイU世、どうやら『六王権』軍から発生したあの霧には何らかの方法で魔術を破戒する効果があるかと」
「そうだろうよ!と言うかそれしか思いつかん!!」
苛立ちながらデスクに拳を撃ち付ける。
「で、霧の範囲は!」
「それが・・・猛烈な速度でロンドン全域を包み込もうとしています!!」
悲鳴そのものと言える報告の間にも霧は『時計塔』を飲み込み、ロンドンを完全に包み込んでしまった。
一方、前線でも混乱が至る所で発生していた。
突然発生した霧に包まれた瞬間、魔術師達の視界が極端に悪くなり始めた。
いや、正確に言えば通常の視力に戻ったと言うべきか。
魔術師達は全員『封印の闇』によって常時夜となったこの事態に対処する為に自身の眼に魔力を注ぎ視力を強化している。
それによって闇の中でも昼と同じ視界を確保できていたのがいきなり失われたのだ、余程突発の事態にも対処出来る人物以外は混乱し、右往左往するだけだろう。
そして視力を失われた魔術師達の大半は残念ながらその右往左往する側だった。
突然視界を奪われ、混乱する中気が付けば死者達に取り囲まれ貪られる。
しかも反撃しようにも魔力による攻撃手段がどう言う訳か悉く無効化されていった。
「どう言う事よ!これ!!」
異常を察した凜が思わず声を荒げる。
カレイドアローから発射された魔力弾の威力が明らかに低下している。
いや低下等と生易しいものではない。
今までは着弾時、強烈な爆発と共に十体近い死者を天高く吹き飛ばしていたのにこの霧が出てからと言うのも爆発は小さく、死者も吹き飛ばすどころか軽くよろめかせる程度、明らかにおかしい。
(まずいですよー本気でヤバいです)
そんな凛、いや魔法少女全員にカレイドルビーの焦った声が極めて危険な事態が発生した事を告げる。
(この霧、魔力を拡散させるんです。ですから凜さんの魔力弾の威力が劇的に下がったんですよー)
「じゃあ、視力が落ちつつあると言うのは・・・」
(視力強化に回した魔力が抜け落ちているんでしょう。どちらにしろ常時魔力を通し続けるか、科学技術をお借りするしかありませんねー)
「なっ、この私にあんな不恰好なものを身につけろとおっしゃるんですか!!」
ルヴィアが思わず絶叫するが、それはごくごく少数の例外を除く全ての魔術師の共通した心境だった。
それを反映する様に多くの魔術師部隊が国連軍側が念の為にと提供しようとした赤外線スコープやサーモスコープ等の対夜間戦闘装備を不要の一言で拒否したのだが、その事も事態の悪化に繋がった。
魔術は様々な事を魔力を使い行う事ができる。
しかし万能ではない。
人々が魔術を使えないからこそ科学技術を進歩させてきた。
そんな事に気付く魔術師のどれほど希少な事か。
結局、前線の魔術師部隊は軒並み被害を受ける。
中には壊滅ないし全滅する部隊すら存在した。
しかもその数は右肩上がりで激増していた
このまま、前線の魔術師部隊は全滅するとも思われたが、そんな中ごく僅かに夜間戦闘装備を受け取った部隊と常時装備している国連軍が意外にも力を発揮し残存兵を回収していく。
またアルトリア達もこの霧に苦慮視ながらも戦力としては健在、次々と死徒を蹴散らし、孤立した味方の救出に奔走する。
だが、全体としてはこの霧のために『六王権』軍に天秤は傾き、壊走一歩手前にまで追い詰められていた。
「くっ・・・ロンドンの魔道要塞としての機能は完全に崩壊したか・・・前線の後退を魔道機で総員に連絡を!!」
ようやく事態を完全に把握したウェイバーは後退を命じる。
「駄目です!この霧で魔道機も機能しません!」
「予備の通信機で全員に伝えろ!ロンドンまで後退し市街戦に持ち込めと」
「で、ですが・・・殆どの前線部隊は通信機の所持を断り・・・」
「くそっ!!」
思わず口汚く罵る。
魔術師達の科学技術軽視がこのような形で仇となるなど想像すら出来なかった。
「それなら伝えられる部隊に片っ端に伝えろ!!このままでは相手に蹂躙されるだけだ!」
そう叫ぶウェイバーだったが、遅かった。
連絡方法を持ち合わせていない部隊の大半は全滅し残りも壊滅同然、健在な部隊は数えるほどしか存在していない。
それでも伝達ゲームの要領でようやくロンドン市街への後退を知るや一目散に市街地へと後退を始めた。
ロンドンに向って退いていくのを見てオーテンロッゼはほくそ笑む。
「くくく、予想を超える戦果を果たしたようだな。我が固有結界『霧中放浪(ミストロード)』は」
この霧こそがオーテンロッゼの固有結界、魔術を極める為に死徒と化した彼は魔術を無効化する研究も行っていた。
その果てに辿り着いた結論は『魔術が形成される前に魔力を抜き取ればよい』と言うある意味究極論だった。
そこから研究に研究を重ね完成させた固有結界こそ『霧中放浪(ミストロード)』、この霧に囚われる限り魔力は自然に抜き取られ、その魔力がこの結界の維持に回される。
魔術師や英霊が集結したこの地だからこそ最大限の力を発揮し最悪の脅威となった。
「よし我々もロンドンに突入する!ロンドンを落とし、この勢いのままイギリス全土を落としてしまえ!」
その先にあるはずの己の輝くばかりの栄光を少しも疑う事無く、オーテンロッゼは全軍の侵攻を命じる。
一方、交代する人類側の殿となったのはアルトリア達英霊と凛達魔法少女、そしてバルトメロイ率いる『クロンの大隊』。
著しく戦力が激減した現状ではもはや彼女達こそが最強の戦力であると同時に最後の砦。
彼女達の前方からはこちら側の後退に乗じる様に『六王権』軍が迫り来る。
そしてそれに従い、あの霧も濃くなってくる。
そんな中で凛達は改めてこの現状での戦い方を話し合う。
「放出した魔力は悉く拡散されてしまう以上、私やメディアは殆ど役に立たないわ。あんた達はどう?」
「まあ私のカレイドグラップはまだ有効ですけど」
「ディザスターは有効ですね。ただ重さが減っています。今の所は大陸一つがせいぜいでしょう」
「シャドーホームもまだ使えます。射程距離は短くなっていますが」
「私のバード達も動かせるわ、動きは鈍くなっているけど」
「物に込められた魔力の方が抜けにくいって事かしら・・・それとこの状況だと宝具も使えない、使えても威力は相当に落ち込むと考えた方が良いかも知れないわ」
「特にアルトリアの『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』とかは尚更ね」
「・・・それよりも姉さん、私達の変身は持つんでしょうか・・・」
桜が不安がるのも無理は無い。
魔法少女の衣装は時折その姿はぶれて、変身が解けつつあったのだから。
「正直きついわね。とりあえずこの姿でいられる限りは援護しましょう。解けたらロンドンに後退ってことで良い?」
「それが無難じゃろうな。変身できぬお主達にここはちときついからな」
何時から話を聞いていたのかイスカンダルが話に加わる。
「余らですらこの現状はちときつい。いくら魔力量に問題は無いとしても」
何しろ穴の開いたバケツに水を注ぐようなものだ。
いくら水を注ぎ込んだとしても水が溜まる事は決してない。
「エミヤの奴がおれば話も変わったと思うのだがのぉ」
「それは楽観的過ぎるのではないのですか?征服王、シロウの能力の事は貴方もよく知っているでしょう?」
イスカンダルの軽口にアルトリアが応ずる。
士郎の能力は強化と投影宝具。
魔力が抜け落ちてしまう現状では士郎が健在だとしても戦況が劇的に変わるとはにわかには信じられない。
「まあ余の感と思ってくれ。それよりも来たぞ」
そう言うや全員戦闘体制に移る。
あまりにも不利な情勢下での戦闘が幕を開けた。
場所を変えよう。
ロンドン市街への後退が命じられアルトリア達が殿で『六王権』軍を迎え撃とうとしていた寸前、ロンドン市街の総合病院の一室では士郎は未だ目覚める事無く眠りに付きその傍らには彼の使い魔であるレイがそっと寄り添っていた。
「・・・ふうご主人様本当に寝すぎよ」
起きる気配の無い士郎にそう呟く。
「私を一人にしないんでしょ」
その声は心なしか力は無い。
「私に名前をつけたんだから私をずっと傍に置くんでしょ」
それ所か明らかにその声は震えている。
「・・・早く・・・早く起きなさいよね・・・バカ、鈍感」
そう言って、そっとその顔に・・・正確には唇に寄せようとした時だった。
「・・・ぅ・・・ぅぅぅう・・・」
規則正しい寝息しか発しなかった士郎の口から小さな呻き声が発せられた。
それを引き金とするように、士郎の閉じられた瞼はゆっくりと開かれようとした。
あの日から彼の意識・・・いや正確には魂かもしれない・・・はずっとここにいた。
時折見る夢に出てきたあの謁見の間。
ここで彼はあらゆる剣を見た、刀に触れた、槍を感じた。
剣と剣に属する武器をその魂に刻み付けた。
一つ刻み付ける度に彼の中に彼の起源と行く末を示した言葉が注ぎ込まれていく。
そしてすべてが注ぎ込まれあるべき形に収まった時、彼の姿は揺らぎ、そして消える。
彼・・・衛宮士郎の休息も終わりを告げた。
士郎もまた戦場に再び赴く時が来た。
意識が休息に浮き上がり、士郎の視界にまず入ったのは天井・・・等ではなく、心配そうに、いやむしろ心細そうな表情のレイだった。
しかもその眼にはうっすらと涙が浮かんでいる。
「・・・?レ・・・イ」
「へ?」
士郎の呼びかけに呆けた声を発するレイだったが、現状を察したレイの表情は一変、何のためらいも無く魔術の氷柱を発動させた。
「!どわあああ!!」
間一髪で避けるが病室のベットに見事な大穴が空いた。
「起きて早々何しやがる!レイ!殺す気か!!」
「何言っているのよ!!いきなり起きる貴方が悪いんでしょう!!」
「意味わかんねえよ!!」
しばし口喧嘩が続いたがようやく落ち着いた士郎が外の様子に気付く。
「??何だこの霧」
「ああ、あれ?『六王権』軍が侵攻してきて直ぐに出てきたのよ」
「侵攻って・・俺が倒れてから直ぐに着たのか?」
「そんな訳無いでしょ。まあ寝ていたから当然か。ご主人様が倒れてかから十日近くたっているのよ」
「そ、そんなに?」
「ええ」
そう言ってからレイは士郎が倒れてからの出来事を知る限り伝える。
「そうか・・・」
「それとこの霧なんか変よ」
「判っている。気のせいじゃなさそうだな。少しづつ魔力が体から抜けている・・・この霧のせいだろうなおそらく」
「これしかおかしなもの無いから当然でしょうね」
「とにかく凛達の応援に行こう。何か胸騒ぎがする」
そう言ってハンガーにかけられたコートに袖を通し、コンテンダーに銃弾が装填されているか確認する。
「えっ?」
そんな士郎を見てレイが驚いた声を発した。
正確には士郎の手を見てだが。
「どうしたレイ」
「手の火傷が・・・消えてるわよ!」
そう言われて改めて確認すると確かにあの火傷の跡が奇麗に消え失せている。
「何時の間に・・・いや、まあ消える時が来たそれだけだろう」
「そ、そんなものかしら・・・それとご主人様、そのコートに銃は何?他の子も不思議そうな顔していたわよ」
「ああ、これか・・・説明したいけど、話せば長くなるからな、これが終わったらゆっくり説明する」
そう言いながら士郎はレイを伴い病院を出る。
その間医師や看護師が士郎をみて心底驚いた表情を浮かべていた。
だがそれも当然といえば当然とも言えよう。
十日間近く眠り続けた人間がいきなり起き上がり動いているのだから。
病院を出て周囲を改めて見れば、郊外の方向から無数の人が中心部に向って駆け抜けている。
「冗談抜きで一大事になっているようだな」
「そうね。あれ、イギリス軍を中心とした多国籍軍だし、あっちにいるのはフリーランスの魔術師部隊」
「それでアルトリアや凛の姿は?」
「いないわね。多分殿じゃないかしら?なんだかんだで最大戦力である事に変わりは無いんだし」
「そうだな。急ぐか・・・しかし、魔力を抜き取られている所為か強化も上手くいかないな」
「そうね視力の強化にも一苦労ね」
そうぼやいていた士郎だったが、偶然近くを通り掛ったイギリス兵から対夜間装備と通信機を受け取る事に成功し、それを装着、更に回路自体も封鎖して魔力の流出を最小限度に食い止める。
起きてからこの短い時間の間に全体の五パーセントの魔力を失えば神経質にならざるを得ない。
ただでさえ、刻印の魔術は通常より遥かに魔力を消費するのだから、可能な限り魔力の消耗は防ぎたい。
「殆どの魔術師はこんな物付けていないみたいね」
「そりゃ、自前で視力を確保できるならそっちに頼るだろ」
士郎の言葉にも一理ある。
傍目から見ると暢気に話をしているように見えたがその間にも士郎は手に入れた通信機で無線を傍受、情報の収集を急いでいた。
「・・・アルトリア達はあっちか・・・急ぐぞレイ」
「了解」
その頃、殿のアルトリア達はまさしく苦戦の真っ只中だった。
既に凛達五人の変身は解けて、後退しようとしたが迂回して行く手を遮る『六王権』軍に逃げ道をふさがれてしまった。
幸いイスカンダルとメディアが救援に駆けつけてくれたので全員無事で、今はイスカンダル、バゼットの後方から残り少ない魔力をやりくりしながら援護に回っている。
とは言え、純粋な魔力を放出では死者に命中するまでに威力が殺されてしまい僅かによろめかせるに留まっている。
しかし、それでもそんな隙を見逃さずバゼットが強化させた拳と脚で粉砕し、殺到しようとすればイスカンダルの『神威の車輪(ゴルティアス・ホイール)』で蹴散らしていく。
またメディアの魔力弾の威力は桁違いなので死者クラスであれば消し飛ばす事は出来る。
だが、通常であれば数十体を一気に蒸発させれる力を持っているメディアからしてみれば相当に苦々しい事だろう。
だが、それも総司令官であるオーテンロッゼと相対している他の英霊達からしてみればまだましだった。
「はあああああ!」
「おりゃあ!!」
「ふっ!」
「おおおおおお!」
「うおおお!」
アルトリア、セタンタ、メドゥーサ、ディルムッド、ヘラクレスの五体の英霊による同時攻撃をオーテンロッゼはその爪の一振りで全員吹き飛ばす。
「風よ!!」
その間隙を縫うようにバルトメロイが鞭に風の魔力を纏わせて一薙ぎする。
だが、魔力は著しく流出し、その一撃では腕を切り裂くのがせいぜい。
それでも充分なダメージであるが。
だが、それに怯む事無く、魔力を乗せた前蹴りをバルトメロイの腹部に叩き込み、蹴り飛ばす。
並の装備なら腹部に穴所か上半身と下半身が分断される一撃だが、幾重にも張り巡らせた防壁とミスリル製の外套が彼女の命を救った。
それでも衝撃を完全に相殺する事は出来ず、思わず咳き込む。
一方オーテンロッゼには攻撃直後の隙を見逃す気が無いかのように、セタンタの槍がオーテンロッゼの心臓を貫く。
「刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)!」
更にヘラクレスの大剣が心臓を貫かれたオーテンロッゼを押し潰す。
「うおおおおおおおおお!」
ヘラクレスが剣を引き上げればそこにはオーテンロッゼだった肉塊だけがあった。
しかし、これでしとめたと思っていない。
何故ならば、肉塊が急速な速度で再生、あっという間にオーテンロッゼに復活を遂げたのだから。
心臓を貫かれた傷も跡形も無く消え失せている。
「またかよ・・・」
「ああ、まただ・・・」
その光景を見てセタンタ、ヘラクレスの二人に焦燥の色が浮かぶ。
この戦闘は始まって何度オーテンロッゼを殺したか、だが、次の瞬間にはオーテンロッゼは完全に再生を遂げてしまう。
痺れを切らしたアルトリアが至近距離から放った『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』の直撃を受けて指一本残して消滅したにも拘らずそこから再度再生したのには流石の彼らも驚愕した。
死徒がその力を最大限発揮する赤月でも満月でもない、この現状でこの再生能力は驚異的だった。
いくら英霊達は座から無限の魔力を供給されていても体力的に追いつくかどうか。
それに凛達は元より『クロンの大隊』すら魔力が殆ど尽き、戦闘可能なのは英霊達とバゼット、そしてバルトメロイのみ。
対して『六王権』軍はいまだその戦力は十分、数の差を質で補うにも限界等とっくに超えている。
ただでさえ、後方の魔術師の護衛の為にディルムッドを回した事でオーテンロッゼを抑える側の負担は更に大きくなっている。
「まずいですね・・・ここまで再生能力があっては私達といえどもうかつには」
「だけど、どうすんだよ。悠長に戦えるほど俺らも余力ある訳じゃねえぞ」
「それも判っています・・・手詰まりですね」
相手は複数の英霊とも互角に戦え、無尽蔵の再生能力、さらにその周囲からは魔力を奪い取る霧、後方にいるのは戦闘能力を喪失した魔術師達、そしてそれを狙う数万の死者や死徒の群れ。
これで勝てればそれはそれで奇跡だが。
「しまった!!」
ふと後ろからディルムッドの切羽詰った声が響く。
見れば一体の死者がディルムッドの防衛を掻い潜り最も手短にいたカレンにその手を伸ばそうとしていた。
それを見てカレンの救援に向おうとするが、それを見透かしたようにオーテンロッゼの猛攻に迎撃せざるおえなくなる。
ここで悲鳴でも上げれば可愛い所もあるだろうがカレンは冷めた目つきで死者を見据え、聖骸布を手に迎え撃とうとする。
だが、それも幸いな事に徒労に終わった。
横から死者を巨大な氷柱が刺し貫いた。
「えっ?」
「あんたがいなくなると困るのよね。ご主人様をからかう仲間がいなくなるんだから」
憎まれ口を発しながら貫かれた死者を蹴り飛ばすレイ。
「あら?後方で猫らしく丸くなっていたのではなかったのですか?」
「ふん、そんな口が叩けるならまだ大丈夫そうね。大体まだ丸くなるには季節的に早過ぎるわよ」
そうこう言っていると反対側から矢の雨が死者に目掛けてこれでもかとばかりに降り注ぐ。
次々と矢は突き刺さりそこから腐れ落ち、死者は倒れ付していく。
「これって・・・」
矢の雨はオーテンロッゼにも襲い掛かる。
「ちぃ!!」
矢の威力を見極めたのか防壁で矢を残らず弾き飛ばそうとするがそこに一本の槍が飛来する。
槍が防壁に当った瞬間、防壁は無効化されて雨霰と矢は突き刺さる。
「少しは効いただろう」
そう言いながら現れたのは士郎。
「おお、エミヤようやく眼を覚ましたか!」
「はいご心配をおかけしましたイスカンダル陛下」
「何時眼を覚ましたのですかシロウ!!」
「ついさっき、それでレイや通信を聞いてここまで来た。それよりもこの霧やはり厄介だな。諸葛弩もゲイ・ジャルグも崩壊しつつある」
士郎が苦虫を噛み潰した表情で独白するもの無理は無い、先程まで死者やオーテンロッゼを攻撃していた『万兵討ち果たす護国の矢(諸葛弩)』、オーテンロッゼの防壁を無効化した『破魔の赤薔薇(ゲイ・ジャルグ)』。
二つともぼろぼろに朽ち果て消滅してしまった。
「この霧と投影とじゃ相性は最悪か」
「く、くくくく・・・とんだ大物が来たのもよ」
不気味な笑い声と共にオーテンロッゼがにじり寄ってくる。
矢は全て引き抜いたのかそれとも消滅したのか一本も刺さっていない。
だが、全身を彩る矢傷が確かにオーテンロッゼに突き刺さっていたのだと言う事を如実に伝えていた。
その矢傷はと言えば、少しずつ腐敗しているが、それを上回る再生能力で治癒されている。
「こいつはいい、あの男が殺す事の出来なかった貴様を殺せば『六王権』陛下も私を認めてくださる筈・・・くくくく、『錬剣師』!!貴様はこの地で私の手にかかり死ね!私の栄光の為に!!」
そう言うやオーテンロッゼは他には眼もくれず士郎の首を狙う。
「俺らを無視する気か!いい度胸じゃねえか!」
「我らを倒さねば彼には辿り着けぬぞ!」
オーテンロッゼの前にセタンタ、ヘラクレスが立ち塞がろうとするがそれを後ろからの戦闘の音が押し留めた。
いつの間にか『六王権』軍全軍が後方に迂回し、ロンドンに侵入を果たそうとしている。
それをメディア、イスカンダル、ディルムッド、バゼット、バルトメロイが必死に防衛しているがそれを掻い潜りロンドン市街に侵入を試みる
殆ど戦力外である魔術師ですら迎撃に向うがそれすらも焼け石に水だった。
「すまんがこっちを手伝え!余達だけでは埒が明かん」
圧倒的な数の暴力の前にイスカンダルですら悲鳴を上げて援軍を求める程。
「しかし、征服王!ここは」
「アルトリア、皆ここは俺に任せて向こうに行ってくれ」
「ですがシロウ!」
「頼む。ロンドンに奴らを侵入されればどうなる?」
「・・・っ、判りました。敵を掃討し救援に戻ります。シロウ御武運を」
「ああ、出来れば早く来てくれると助かる」
「はい必ず。この剣にかけて」
そう言ってアルトリア達は後方に向かい『六王権』軍の迎撃に掛かる。
それを入れ替わりにオーテンロッゼが士郎に肉薄するが既に士郎の手には宝具が握られていた。
「お上に仇名す破滅の妖刀(村正)!」
遠慮も無い妖刀の一閃は胸元を切り裂きそこより加速度的にオーテンロッゼの肉体を崩壊させようとするが、やはりそれを上回る速度で肉体は再生されていく。
「今の私はまさしく最強!そんな柔な攻撃が効くか!!」
そう言うや爪の一閃が士郎の首目掛けて振り下ろされる。
タイミングも最悪、避けきれるものではなかった。
「死ねえ!『錬剣師』朽ち果てろ!!」
オーテンロッゼの勝利を確信した咆哮が響き渡った。